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「セルフィッシュポートレート」

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10月22日、佐々木ののかさんの個展「セルフィッシュポートレート」へ。

 

ののかさんのことを知ったのは一昨年の春。この記事がきっかけだった。私の心の少し窪んだ部分に心地好く入ってくる彼女の言葉や文章が展示という形になったらどうなるのか、とても楽しみだった。

 

扉を開けると、文章とちゃぶ台。事前にTwitterで写真は拝見していたけれど、いざ実物を目にするとなんだか笑ってしまう。真白な空間に置かれたちゃぶ台というのは、面白い。

靴を脱いで会場内を見回す。座って文章を読み込んでいる女性に、少し背伸びをして壁に貼られた文章を読む男性がいる。そして、佐々木ののかさんが明るく迎えてくださった。

靴を脱いで、好きな姿勢で、好きな順番で、広い空間に置かれた言葉と文章を堪能できる形式なので、入口に近いところから順に文章を読んでいく。

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今年の2月にウェブメディア「アパートメント」に掲載されていた『プロポーズと内省』が収録されているZINE「乙女とパンク」も置かれていた。

プロポーズと内省は大好きな作品で、何度もWeb上で読んでいるけれど、ののかさんの笑い声や人がいる気配を感じながら床に座って紙を捲っていくと、文字しか見えなくなって、作品の中に入り込んでしまったような感覚になる。私には恋だとか愛だとか、いわゆる特別な感情、のようなものは分からないけれど、きっと誰かを想うことができたら今とは違う世界が見えるのかもしれない、と改めて思う。

誰からも切り離すことができない筈なのに、あまり表現されない「家族と性愛」。何故ののかさんがこのテーマを扱うのかについて触れた文章もあり、「セルフィッシュポートレート」という言葉の意味が少しだけ見えたような気がした。

 

家族、愛、生理…etc.実情も、向き合い方も、感覚も、みんな違うはずなのに、なぜか世の中には目に見えない「普通」が存在して、ちょっとでも「普通」からはみ出したものは批難されたり、つらい思いを強いられたりする。なんだ普通って。全人類に共通する普通なんて概念が出来る頃にはバベルの塔が3つは建つぞ。もっと言えば普通だとかそうじゃないとか、二元的に括ることだって馬鹿らしい。なんて本当は思っているけれど、それを口に出すと面倒なことになりそうだからぐっと飲み込む。

そうやって積もった澱が、いくつもの文章を読んでいくうちに昇華されていく。

 

それから、他の来場者の方と一緒にちゃぶ台を囲んでののかさんにお茶を入れていただいた。

たくさんのお菓子と温かいほうじ茶を前に、初めて会った人とだからこそ出来るような話が広がっていく。まるで、ののかさんとちゃぶ台がひとつのプラットフォームのようだった。恐るべし、ちゃぶ台。深浅を問わず色々な話題が飛び出して、一人ひとりが自分の幸せを抱きしめている、あるいは抱きしめようとしているのがひしひしと伝わってきて、最高だった。

 

いつだって世の中は分からないことだらけで、みんなが「普通」をどこで手に入れているのかも分からないから、息を潜めて「普通」に紛れ込んでいるような気になっていたけれど、やっぱり「普通」についてなんて考えたってしょうがないし、近づこうとする必要は1mmもないな、と思えて心が少し軽くなった。私は私だけを愛して生きていくぞ。

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文字がちゃぶ台の上で踊って、言葉になっていく。言葉が人ごみをすり抜けて、文章になっていく。そんな個展でした。

ののかさんはとってもキュートでチャーミングで、好奇心に真っ直ぐな素敵な方でした。大好きなことばを全身から摂取して、興味深いお話をたくさん聞かせていただいて、ほんとうに楽しい時間でした。ありがとうございました。